ジュリー・ビンデル「売買春が非犯罪化されるとどうなるか?――ニュージーランドの現実」

【解説】セックスワーク派とそれを支持する左翼男性はいつも、ニュージーランドの政策(売買春に関連するあらゆる行為を非犯罪化する政策)を出して、それがあたかも「セックスワーカー」にとって最良の選択であるかのように宣伝しています。この国際情報サイトではすでにニュージーランドで売春に従事していたサバイバーの証言をいくつも掲載して、それが単なる神話であることを明らかにしてきました。今回は、国際的に有名なフェミニスト・アボリショニストのジャーナリストであるジュリー・ビンデルさんの2017年の記事を紹介します。

ジュリー・ビンデル

『インデペンデント』2017年8月6日

 男性の暴力に反対するフェミニストの運動家として、私がこれまでに闘ってきた中で最も困難な闘いは、売買春の拡大とそのノーマライゼーションに反対することだ。性産業についての真実を暴こうとする著作のために取材と調査をしていたとき、私が遭遇したのは、性産業を無害なサービス産業として再ブランド化し美化しようとしている歪んだ現実である。それを推進しているのが、いわゆる「セックスワーカーの権利」運動である。

 私は2年間で16万4000マイルを旅し、世界中で250人もの人々にインタビューしてきた。私が直面した最大の障害は、性売買の真実を隠蔽し、それを美化した上で世界に向けて発信する、よく回転するプロパガンダマシーンだった。

 私は、売買春推進派の膨大な数の「学術」研究を綿密に分析し、性売買の資金提供者や支援者を調べ上げ、包括的非犯罪化のいわゆる「メリット」について質問を発し、性売買のサバイバーに注意深く耳を傾けることによって、女性の生身の身体の売買やレンタルが法的・文化的に許容される場合に何が起こるのか、その真相を明らかにした。

 ニュージーランドは、売買春に内在する問題を根絶する方法の代表的モデルとして定期的に紹介されている。2003年、ニュージーランド政府は、ピンプ〔ポン引き〕、売春店の経営、買春を非処罰化することを(わずか1票の賛成多数で)可決した。「ニュージーランド売春婦コレクティブ(NZPC)」が主導した議論は、人々の判断を誤った方向に向ける能力という点で説得力のあるものだった。それは、性産業のあらゆる側面からあらゆる刑事罰を取り除くことが「労働者の権利」につながり、女性にとっての安全性を増すというものだ。性産業の事業者たちにとってありがたいことに、ピンプや売春店の経営者が「ビジネスマン」として再ブランド化されることになった。私は、ネバダ州の合法的なピンプが自分の「ビジネス」についてマクドナルドと同じであるかのよう話すのを聞いた。違うのは、売買春の場合に売られているのは死んだ肉ではなく、生身の人間であるということだ。

 オランダ、ドイツ、ネバダ州(米国)、オーストラリアの一部の州など、性売買搾取者に対する刑事罰を撤廃した他の国や州と並んで、ニュージーランドは、車を売るのと同じように性を売ることを立派な産業に仕立て上げ、面倒なお役所的手続きを取り除くのに貢献した。ニュージーランドで売春店を開くための申請書はわずか2ページで、動物保護施設から犬や猫をもらい受けるのに必要な申請書より3ページも短い。

 私が調査中に出会った多くの性産業サバイバーの一人が、25年間に渡ってNZPCでボランティア活動を行なっていたサブリナ・ヴァリスである。彼女は同僚たちといっしょに全面的な非犯罪化を求めて運動してきたが、今ではそのことを後悔している。「非犯罪化すれば女性にもっと力と権利が与えられると思っていましたが、やがてその逆が事実だということに気づきました」と私に語った。

 ヴァリスによると、非犯罪化は、売買春の中で性を売っている人々よりも、むしろ性を買う買春者や売春店経営者に利益をもたらした。

 「売春店経営者は値段を選べるようになっていて、彼らは『すべて込みだ』と言います。つまり、客はお金を払って部屋に入ると、女の子は客が望むありとあらゆることをしなければならないのです」とヴァリスは言う。

 合法化され非犯罪化された体制のもとでは、女性が受ける虐待は、今では「職業上の危険」とみなされており、建設業者のつま先に落ちてきた石のようなものである。セックスの買い手がお金を払って挿入する女性を選ぶことができるよう女性が展示されている「飾り窓売春店」が自慢のアムステルダムでは、すっかりセックス・ツーリズムが普通のものになっており、かつて大手観光業者のトーマス・クック社でさえ、3歳未満の子供が無料で見に行ける赤線地帯のガイド付きツアーを提供していたほどだ。

 需要の増加に対応するため、オランダ全土で人身売買業者によってアフリカ、東欧、アジアから女性たちが輸入されている。女性が売買春から抜け出すための支援はほとんどないし、性売買の生来の不透明さは、法的な祝福によっても払拭されていない。ドイツやネバダ州でのように、組織犯罪と売買春の密接な関係は断たれておらず、女性は今もなおピンプや人身売買業者によって驚くべき割合で殺されている。

 2012年の『世界開発』ジャーナルの記事によると、「売買春が合法化されている国では、人身売買の流入が統計的に有意に多い」と報告されている。  性売買を非犯罪化しても、性を売る人たちを守ることはできない。私は、買春されている人々の犯罪化をやめさせ、買春者に責任を問うために積極的にキャンペーンを展開している多くのフェミニスト・アボリショニストの一人だ。オーストラリア、オランダ、ネバダ州、ドイツの合法的な売春店やいわゆる路上売春「寛容地帯」に滞在して取材した経験から明らかになったのは、ピンプや搾取者たちから刑事罰を取り除くことの最も悪質な影響は、売買春を単純な商取引として再定義(リフレイム)してしまうことであり、その結果、グローバルな性売買の中心にある被害や虐待についての真実を隠すことになることだということだ。

出典:https://www.independent.co.uk/voices/prostitution-decriminalisation-new-zealand-holland-abuse-harm-commercialisation-a7878586.html

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投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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