ジュリー・ビンデル「イタリアでも潮目が変わりつつある――北欧モデル型の新法案が準備」

【解説】以下は、イギリスのフェミニスト・ジャーナリストであるジュリー・ビンデルさんの最新記事で、イタリアでも北欧モデル型立法が準備されていることを紹介するものです。イタリアの現行の売春関連法は日本の売春防止法と似て、売春店を禁止し、売春への強制、売春の周旋行為を処罰する法体系ですが、これも日本と似て、事実上、ザル法となっていて、多くの売春店が野放し状態になっています。もちろん、そこで主として搾取されているのは、若い貧困女性、アフリカや東欧からの移民女性です。そこで、買春者を処罰し、被買春女性に支援を提供する北欧モデル型立法が準備されているとのことです。

ジュリー・ビンデル

『ガーディアン』2022年7月2日

 私はローマで開催された「売買春」会議から戻ったところだ。イタリアは北欧モデル型の法を導入する準備ができているのか? このイベントは、イタリアの上院で開催された初めてのもので、いくつかの論争を引き起こした。

 アレッサンドラ・マイオリーノ上院議員が起草した新法案がこの会議で発表された。これが議会で可決されれば、それは買春を犯罪化し、売春に直接している者を非犯罪化するものになるだろう。北欧モデルとして知られるこのアプローチは、1999年にスウェーデンで初めて導入され、その後、アイルランド共和国、北アイルランド、フランス、ノルウェー、アイスランド、イスラエルなど、多くの国で採用されている。

 会場の外では、「セックスワーカー」とアライを代表する小さな抗議団体が、法案に含まれているエビデンスには合法化賛成派の意見も含まれているにもかかわらず、主催者が「私たちを議論のテーブルにすら招かず、私たちの生活と身体について語っている」と非難した。おそらくもっと重要なのは、性産業を生き抜いてきてその後性産業から離脱した女性たちの声が、この議論の中ではっきりと聞かれたことだ。

 イタリアでは、性産業をめぐる潮目が変わりつつある。五つ星運動の国会議員であるマイオリーノは、党派を超えた支持を集めており、会議では若者の代表者や、女性に対する暴力、男女平等について語るスピーカーたちがあいついで登壇した。

 法に対する評価では、この北欧モデルのアプローチにより、売春をする女性の数が減少し、男性がお金を払ってセックスをすることを容認する文化が疑問視されるようになったことが示されている。多くの性産業サバイバーを含むアボリショニスト〔性売買廃絶論者〕たちは、世界的にこの法律を導入するよう求めている。

 イタリアには、性産業を禁止する法律を制定した歴史がある。1958年、リナ・メルリン上院議員は、合法的な売春店を事実上廃止する「メルリン法」を導入した。この法律が導入される前は、州によって認可された売春店が560軒あった。この法律はまた、被買春女性の前科を残すことをなくし、売春(買春ではなく)に伴うスティグマから彼女たちを解放し、離脱への支援を提供するものだった。この法律の主な目的は、売春を強制ないし強要されたり、売買春の中で搾取される女性の数を減らすことだった。イタリアのフェミニストたちは、この法律を商業的性搾取に反対する人権法の基礎とみなしている。

 この法律は売買春の合法化を支持する人々から定期的に非難を浴びてきた。最も新しい例で言うと、2019年3月、実業家ジャンパオロ・タランティーニが、当時の首相シルヴィオ・ベルルスコーニのために「エスコート嬢」を募集して売春を幇助したとして有罪判決を受けた事件に関して、バーリの控訴裁判所で異議を申し立てられたことだ。タランティーニの弁護士たちは、売買春は1958年当時とは異なるものとなっており、現在では女性には性的自由があるため、自由にセックスワーカーになることを選択できると主張した。この訴えは憲法裁判所によって退けられ、マーリン法は支持された。

 アレッサンドラ・マイオリーノによれば、1958年当時よりも性産業における暴力、虐待、搾取はむしろ増えている。「女性を売春へと強要するやり方が増えている」という。実際、フェミニスト団体「レジステンツァ・フェミニスタ(Resistenza Femminista)」のイラリア・バルディニが教えてくれたように、イタリア全土で売買春は「完全に常態化」されており、警察は売春店や路上における犯罪的な女性搾取をしばしば無視し、ピンプや買春者を取り締まることはめったにない。

 3月、ロベルト・サヴィアーノ(著書『ゴモラ』でイタリア最強のマフィア・ネットワークの一つを暴露した)は『コリエレ・デラ・セラ』に記事を書き、イタリアでの売春の合法化は必要で、売春は「本物の職業」であり、性産業において女性を保護できる唯一の方法はそれを「規制」することであると主張した。

 この記事は大きな物議を醸し、新聞社には反性売買派のフェミニストから反論する権利を求めるメールが殺到した。同紙の記者であるモニカ・リッチ・サルジェンティーニは、フェミニストの反論を求める声を支持した。その結果、彼女は文書による警告を受け、3日間の停職処分という脅しを受けた。

 イタリアでも他の国でも、合法化推進派の活動家たちが激しい抵抗をしているが、北欧モデルのメリットは明らかだ。この法律が施行されたすべての地域で、売春をする女性の数は減少し、彼女たちに対する暴力(殺人を含む)も減少している。それは過度に懲罰的でもなければ、「監獄的(carceral)」な法でもない。マイオリーノの法案では、買春者に対して、初犯の場合は1500〜5000ユーロの罰金と警察の警告(police caution)という控えめな内容になっている。5年のうちに1回以上再犯した場合は、1万5000ユーロ以下の罰金を科すことができる。買春者が加害者再教育プログラムに参加すれば、6カ月から3年の実刑判決は避けられる。

 他方、合法化や非犯罪化は常に悲惨な結果を招くのであり、私はこのことを調査を通じて明らかにした。ドイツは2002年に全面的な合法化を導入したが、国会議員のレニ・ブレイマイヤーがローマの代表者たちに語ったように、それ以来、ドイツは女性と子どもの人身売買目的地として最も急速に拡大している国の一つになっている。

 「ベルルスコーニのようなスキャンダルはあってはならないことです」と彼女は語る――「そして、イタリアの男たちも、ベルルスコーニを手本にするべきではありません」。

出典:https://www.theguardian.com/commentisfree/2022/jul/02/the-tide-is-finally-turning-in-italy-in-favour-of-protecting-women-in-the-sex-trade

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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