ジュリー・ビンデル「女性の運命に重大な影響を及ぼすヨーロッパ性売買『人権』訴訟の行方」

【解説】以下は、このサイトで何本もその記事を紹介しているイギリスのアボリショニストのジャーナリストであるジュリー・ビンデルさんの最新記事です。今週、ヨーロッパ人権裁判所で、フランスのアボリショニスト法(北欧モデル立法)の違憲性を主張する売買春推進派による訴えが審理されます。ビンデルさんはもしこの裁判で原告である売買春推進派が勝利すれば、ヨーロッパ各国で同様の法律を持っている国で法律廃止の動きが一気に加速することになると警告しています。この裁判の行方は、ヨーロッパのみならず全世界における女性と少女の運命に重大な影響を及ぼすことになるでしょう。

ジュリー・ビンデル

『ガーディアン紙』2021年6月19日

 今週、ストラスブールのヨーロッパ人権裁判所(ECHR)で審理される裁判は、売春廃絶運動をしている人々に悲惨な結果をもたらす可能性がある。

 この審理は、フランスの売買春に関する法律――買春を犯罪化した法――が合憲かどうか、あるいは自称「セックスワーカー」の人権を侵害していないかどうかを判断する第一歩である。

 フランスは2016年に「アボリショニスト・モデル」と呼ばれる法律を導入し、性を買うことを違法とする国々(スウェーデン、ノルウェー、カナダ、北アイルランド、アイルランド共和国、イスラエル)の、ますます増大するリストに加わった。刑事責任を売り手から買い手へと転換し、買い手は捕まれば罰金が科される。

 この制度は当初から激しい論争の的になっていた。「セックスワーカー」の権利を擁護する運動家たちは、ピンプ、売春店の経営、車での女性物色行為(kerb crawling)を含む性産業全体を非犯罪化することがより良い解決策であると主張した。

 しかし、売買春は、当事者である大多数の女性にとって危険で屈辱的なものだ。ピンプや売春店の所有を規制する法律を撤廃し、男性がセックスにお金を払うことを合法化することは、売春は避けられないことだとか、私がさんざん言われてきたように、「最古の職業」であるという見解をさらに強固に定着させる結果となる。私はむしろ、「最古の抑圧」という言葉を使いたい。

 2019年12月、フランスの憲法裁判所にこの法律に対する異議が申し立てられたが、合憲であると判断されて、法律は維持された。判決の中で裁判官たちは、この法律は「ピンプから利益を奪うことで」女性の保護に役立っているとし、この法は「この利得活動と闘うものであり、人間の性的搾取、強制や奴隷化に立脚した犯罪活動と闘うものだ」と述べた。

 原告であった売春関係者250名は、フランスの19のNGOの支援を受け、現在、ヨーロッパ人権裁判所(ECHR)に提訴している。

 原告たちが人権法を使って、男性がお金を払ってセックスをする「権利」を主張しているという事実は、驚くべきことだ。売買春は当事者である女性の人権侵害であり、男性にはお金を払ってセックス買う権利などない。今回の裁判では、女性が性を売る「人権」なるものが、男性が最も弱い立場にある女性に性的にアクセスする権利を守るための煙幕として使われている。

 原告たちは、この法律が欧州人権条約の3つの条文(生存権、非人道的かつ品位を傷つける取り扱いの禁止、私生活に対する権利)に違反していると主張している。彼らの主張の一つは、この法律が売買春を地下に追いやることで女性の生命を危険にさらすこと、「悪い」客だけがリスクを犯すため、女性が買春者から暴力を受ける可能性が高くなること、女性には性を売ることを自律的に決定する権利があること、などである。

 これらの主張には何のエビデンスもない。それどころか、アボリショニスト・モデルを採用している国々の調査では、ピンプや買春者による女性への暴力や殺人の発生率は、非犯罪化された国に比べてはるかに低いことが明らかになっている。

 この裁判の行方は重大だ。もし原告側が勝てば、同様の法律を持つ他のすべての国で、売春推進派のロビイストが異議を唱えることになるだろう。逆に、彼らが負ければ、アボリショニスト・モデルの正統性がいっそう強化され、その成功が強く印象づけられることにだろう。したがって、この裁判は、他の国々が自国の性産業に対処する際の方向性を示す上で、重大な意味を持っている。

 では、需要抑制策に代わる政策とはいったい何だろうか? オランダ、ドイツ、スイスで採用されているような、全面的な非犯罪化ないし合法化だ。しかし、合法化政策は大失敗に終わっている。この制度のもとで、性的サービスへの需要、女性や少女の人身売買、違法な売春店が増加している。合法的な性売買において女性の暴力、HIV感染率、殺人などが減少したというエビデンスはないが、合法化や非犯罪化のロビイストが約束した権利や自由が、売春店のオーナーや買春者に移ったというエビデンスはある。

 性売買のサバイバーが設立したフェミニストNGOで、アボリショニスト・モデルのキャンペーンを行なっている「SPACEインターナショナル」は、この訴訟に介入するために申請をしており、このフランス法の優位性を示す証拠を提出する予定だ。たとえば、この法律には、売春をやめたい女性のための離脱サービスの規定や、ピンプなどの搾取者からの保護が含まれている。

 もし原告側が成功すれば、この判決は今後、多くの裁判が依拠する判例法となり、ピンプたちが自分たちの利益を守るために他の国でも買春者処罰法を廃止する大規模なキャンペーンに資金を提供するようになるだろう。

 もしアボリショニスト・モデル(北欧モデル)が廃止されれば、それは女性にとっていっそう悲惨なことになり、性的搾取者にとっては免罪になるということを、裁判官が分別を持って理解してくれることを強く期待したい。

出典:https://www.theguardian.com/society/2021/jun/19/the-human-rights-sex-trade-case-that-will-harm-women

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投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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