ジュリー・ビンデル「売買春の真実の顔――ディマンド・アボリションの買春者調査が示すもの」

【解説】以下の論考はイギリスのラディカル・フェミニスト、ジュリー・ビンデルさんが書いた論文です。すでに1年以上前のものですが、内容はまったく古くなっていません。

ジュリー・ビンデル

『Truth Dig』2019年6月12日

 「それ〔買春〕はレイプを止めるのに役立っていると俺は本気で思ってるよ」とベンジャミンは私に語った――「男たちの欲求不満を解消して、自然な渇望を満たしてくれるからね」。ベンジャミンが力説していたのは買春の利点についてだ。それは女にとってもいいものだと言う。なぜなら、レイプしなくても、男たちは、売春女性にお金を払うことで、自分の欲する仕方で欲するときにセックスを手に入れることができるのだから。おかげで男たちは自分たちのニーズを確実に満たすことができる。ベンジャミンの考えでは、それでみんながハッピーになる。

 しかし、彼の言い分は性売買の現実からほど遠い。男性は別に、セックスに直接アクセスできないからといってレイプするようプログラミングされているわけではないし、そもそもセックスをする「権利」など存在しない。性売買のサバイバーであるフィオーナ・ブロードフットは言う――「売買春はレイプを減少させると男たちが主張するとき、彼らが実際に言いたいのは、被買春女性にならレイプしてもOKだということであり、それこそ私たちが買春男たち(Johns)とのセックスで経験していることです。買春はレイプなのです」。

 過去20年、私は性を買う男たちに何十人もインタビューしてきた。合法の売春店や違法マッサージパーラー、路上においてである。こうした男たちからあらゆる正当化論を耳にしてきた。その一つは、セックスの代わりにお金を亜払うことで女性が子どもを養うのを助けているのだというものである。売買春は――性を買うことも売ることも――アメリカのほとんど全土で違法であるにもかかわらず、性を買う側が逮捕されることはめったにない。しかし、被買春女性の方は重く不当に罰せられている。彼女らの圧倒的多数は性売買へと強要され搾取されているというエビデンスが存在するにもかかわらずだ。

 ネバダ州では売買春が――ピンプ行為も、売春店の経営も、性を買うことも――合法化されている。売買春が許容されているのは同州の7つのカウンティ〔州の下の行政区、「郡」とも訳す〕だけだが、ネバダ州での性売買に関する調査が示しているように、合法化は売買春が州全体でノーマライズされる〔ごく普通のこととされる〕という結果をもたらした。ラスベガスにやって来る者の大多数は、売買春が同市で完全に合法であると信じ込んでいる。このことは、男たちは性を買うことをやすやすと正当化するのを可能にしている。

 現在ネバダ州では、この合法売春店を閉鎖するべきか否かをめぐって論争が起きており、またニューヨーク市では現在、売春推進派のロビー団体が同市における性売買の非犯罪化を推進している。こうした状況の中では、議論の中心を性を売る女性から需要要因たる男たちへと移動させることが必要不可欠である。そういう意味で、性を買う男性に関する最近発表された調査――これはアメリカで性的搾取に反対するキャンペーンを展開している団体「ディマンド・アボリション(DA)」によって実施された――は非常にタイムリーであるとともに、決定的に重要である。

 この調査が示すところでは、アメリカの男性の大多数は性を買うことを選択していないが、性売買の「クリーピング・ノーマライゼーション(忍び寄るノーマル化)」は売買春は被害者のいない犯罪であるとの見解を広めることにつながっている。そして、売買春を合法化した国や州では、性的人身売買の発生率が増大している

 DAの報告書は買春男たちのビヘイビアと態度を調査したものだ。全米8000人以上の成人男性に対面調査したうえで、何人かの性売買サバイバーに、この調査に関する見解を語ってもらい、変化のために何をするべきと考えるかについて尋ねている。この調査に協力したサバイバーの一人がマリアン・ハッチャーである。ハッチャーは、シカゴのクック郡の保安官事務所〔警察署〕の反人身取引課で被害者代理人を務めており、ピア・レビュアーの一人である。

 「この報告書はサバイバーにとってプラスとなるものです。というのも、不平等な社会は平等化されなければならず、買い手は責任を問われなければならないとの認識が示されているからです」とハッチャーは言う。「それは、性売買から脱け出したサバイバーのアボリショニストや被害者に希望を与えるものです。被害者に脱出の機会を提供する社会、買春者となりうる人々に被害に関する教育を施す社会、そういう社会に私たちが生きることになるという希望です。この報告書で推奨されている政策が合法・非合法どちらの性売買にも適用してほしいと切に願っています。一方に適切に対処しないかぎり他方に対処することはできません。両者あいまって人間の商品化を推進し、女性と少女に対する暴力を推進しているからです」。

 「ディマンド・アボリション(DA)」のインタビューは、「プッシュ要因」(性を買う男たち)とその可能な抑止策に焦点を当てている。DAは、性を買う行為を、搾取される女性にとっても、社会全体にとっても有害であるとみなしている。なぜなら、買春男はグローバルなミソジニーの文化を体現する存在だからである。性を買う男たちのあいだにはいくつかの普遍的な類似性がある。私がメリッサ・ファーリー(臨床心理学者で、カリフォルニア州の非政府組織「売買春――調査と研究」のコーディネーター)と行なった調査は、イギリスの買春男たち(Johns)のあいだでの一つの中心的なプッシュ要因が、他の男たちからのピア・プレッシャーであること、それが売買春を許容する文化を構成していることを明らかにした。

 イギリスの調査は、逮捕の恐れ、家族や雇用主に自分の買春行為が知られるリスク、警察のデータベースに自分の詳細な記録が載る、といった最も軽い抑止策でさえ効果的であると結論づけている。常習の買い手を別にすれば、このような抑止策は一般に、性を買うことに二の足を踏ませることになる。

 DAの調査が明らかにしたところでは、性を買ったことのあるアメリカ人男性(ネバダの合法地域以外)のうち、買春で逮捕されたことがあると回答したのは、約6%だけだった。買い手がこの〔逮捕されるという〕リスクをもっと実感するようになれば、彼らの行動を変化させることができるかもしれない。買春者の約4分の1が「逮捕のリスクが高ければ買春しない」に「強く同意」している。

 DAの調査は、同団体が「高頻度」の買い手と呼ぶ層が非合法の性売買において不釣り合いに高い割合を占めていることを明らかにした。現役の買春男の約4分の1が、毎週ないし毎月、性を買っていると回答しており、彼らによる取引が性売買市場のほとんど4分の3を占めている。これらの買い手たちは若い頃から買春を開始する傾向にあり、彼らの社会的ネットワークの中の他の誰かに誘われたり促されたりしている。

 性売買には膨大なお金が関与している。その多くはピンプ、売春店オーナー、ドラッグディーラーに流れる。平均して、アメリカの性買者は一つの取引あたり100ドル以上を費やしている。売買春は莫大な利潤を生みだしている。イギリスでは10億ドルと推定され、世界的には年1860億ドルと推定されている。それは、人間を商品とみなす資本主義の最も残酷で最も略奪的な形態である。

 それではいったいどうしてこれほど多くの男たちは、見知らぬ複数の男たちに犯されることこそ女性の自由の頂点であるとみなしているのだろうか? そして、どうしてこれほど多くの左派の個人や、ILOやアムネスティ・インターナショナルのような組織が、売買春支持の路線を採っているのだろうか?

 これらのいわゆる人権団体は「セックスワークは労働である(sex work is work)」という立場を取っている。それに対して、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、北アイルランド、アイルランド共和国、イスラエル、フランスは北欧モデル(あるいは「アボリショニスト・モデル」という言い方もしだいにされるようになっている)を採用している。このアプローチのもとでは、被買春者は非犯罪化され、性売買から脱出するための支援を与えられるが、買春者は犯罪化される。アボリショニスト・モデルへの支持がますます大きくなっているにもかかわらず、性を買うことは男性の譲ることのできない権利だとみなしている人々は、このモデルを嫌悪している。2013年にこの法がフランスで議論になったとき、フランスの著名な知識人たちの一団が、次のような内容の声明に署名した――「私たちの一部は売春婦のもとに行ったし、現在も行っているし、今後も行くだろう。そして私たちはそのことを恥と思わない」。さらに曰く――「誰もが自分の魅力を自由に売ることができるべきだし、そうするのを楽しむ自由もあるべきだ」。

 最近、『ティーン・ヴォーグ』に南アフリカの医者が書いた「どうしてセックスワークは立派な仕事なのか」というタイトルの論説が掲載されたが、それは次のように主張する。「セックスワーカーを求める男性は多様だ。それに買い手は男性だけではない。親密さ〔性〕を買い、そういうサービスにお金を払うというのは、人とのつながりや友情や情緒的サポートを必要としている多くの人々にとっては有益なものになりうる。ファンタジーや倒錯的な趣味を持っている一部の人々もセックスワーカーのサービスでそれを満たすことができる」。この雑誌それ自体が、少女と若い女性相手に、性的搾取を現実的なキャリア選択の一つとして推進する不名誉な出版物であるが、その点を別にしても、このようなプロパガンダは、男にはセックスする権利があるという発想を持続させる。

 性売買の存続は、ミソジニー、階級的偏見、人種差別、植民地主義、帝国主義にもとづいている。カナダ先住民のサバイバーであるブリジット・ペリエは言う、「左派の人々が、性売買がいかに女性に有害であるかを理解することができないとしても、せめて、性売買を支えている人種差別や植民地主義に関心を持ってもらいたいものです」。

 グローバルな性売買に関する拙著『売買春の美化――セックスワーク神話の根絶』のための調査をしているときに、私は50人もの性売買サバイバーにインタビューを行なったが、その多くは、有色女性として出くわした人種差別、偏狭、偏見について語ってくれた。実際、多くの黒人女性サバイバーたちは自分たちの売春経験を奴隷制の歴史になぞらえた。アフリカ系アメリカ人の性売買サバイバーでアボリショニストであるヴェドニタ・カーターは言う、「奴隷貿易の時代は、アフリカ系アメリカ人女性にとって性的人身売買が始まった時代でもあります。奴隷が解放された後でさえ、黒人の女性と少女は依然として売り買いされていました。今日でも都市部の多くの貧困地域では、中産階級の男たちは、買ったり使用したりすることのできる有色の女性や少女を探すためだけに車で乗り入れてきます」。

 アメリカの被買春女性の中では、若いアフリカ系アメリカ人やその他の有色の女性が不釣り合いに多い。私がネバダ州の合法売春店でインタビューした1人の買春男はこう語った。自分が性を買う主な理由は、「さまざまな肌の色の女をデートすることなしに味わう」ことができるからだ。「黒人もラティーノも〔正式の恋人として〕自分の家族に紹介したいとは思わないが」と彼は言う、「犯(や)るのにはちょうどいいんだ」。

 DAの調査によると、買春者と非買春者とでは、男らしさと買春に関して著しく異なった見解を持っている。非買春者は買春者よりも次のように言う場合が多い。セックスのために誰かを買うことは女性を物として扱うことであり、そのような行為は他者を搾取することであると。現役の買春者は次のように言う傾向が非常に強い。自分たちは「男なら誰もがすることをしているだけ」だとか、「自分の欲求に忠実なだけ」だと。しかし、同じ調査は、過去にセックスを買ったことがある男性の多くがやめたがっているということも示している。インタビューを受けた現役の買春者の3分の1は、もう一度したいとは思わないと答えている。

 それにもかかわらず、アメリカで性売買を合法化することへの最も大きな支持は、ピンプと売春店オーナーを除けば、買い手から来ている。現役の買春者の多くは、女性たちは「売春行為を楽しんでいる」「職業としてそれを選択している」と信じている。最近私はアムステルダムに取材旅行に出かけたが、悪名高い飾り窓売春地域にいた1人の若者に話を聞いた。彼が最初に買春したのは12歳の時だと言う。「父親が売春店に連れて行ってくれ、そこで男になることを学ぶようにと言われた」。「ここでは売春は合法だから、何の問題もない」。

 売買春は実際には危険に満ちている。路上売春における女性の殺人発生率について調べたある調査によると、彼女らは他の女性よりも60倍から100倍多く殺害される可能性があった。買春男とピンプが、被買春女性に対する殺人およびその他の暴力犯罪の主要な実行者である。2017年、アメリカでの被買春女性の殺人事件の57%から100%が、買春者によってなされた。

 メリッサ・ファーリーの調査によると、男たちの買春容認は女性に対する暴力を奨励し正当化することに役立っている。DAの調査も同じような結論に達している。男たちは、一方的な性欲を満たすために女性の体内を賃借する権利があると思っており、そして女性たちは現金の必要性ゆえにそれに同意していることを知りつつそうしているのだから、こうした男たちが女性たちを男に隷属する存在だとみなしても不思議ではないし、こうした態度は女性に対する侮蔑を助長する。

 「男が女に金を払うのは、誰とでも好きな時にやれるからだ。多くの男たちが売春婦のもとに通うのは、生身の女なら耐えられないようなことをすることができるからだ」、ある買春男性はそう私に語った。私はこれまで、買春行為を手軽なマスターベーションとして語る無数の男たちに出会ってきた。

 「ディマンド・アボリション(DA)」の報告書は最後に、調査結果の分析に協力した性売買サバイバーたちの推奨するいくつかの対策について述べている。一つは、性を買うのを普通のこととみなす発想に克服するための公共的な教育的メッセージを社会に広げること、そして教育や公衆衛生部門を中心にして、性売買の現実を伝える努力をすること。もう一つは、有罪となった買春男に対して法律で定められた最少額の罰金を課し、そのお金を女性のための離脱サービス、買春男向けの教育プログラム、買春者(セックス・バイヤー)の取り締まりに用いること。

 この調査は、売買春の諸被害に関するさらなるエビデンスを提供している点で有益である。またそれは、二極化している論争、すなわち問題になっているのは「セックスワーカーの権利」や「女性の主体性(エージェンシー)」なのか、それとも、立場の弱い被買春者の商業的性搾取なのか、このことをめぐる論争に取り組んでいる人々にも大いに役立つものでもある。必要なのは、こうした調査と並んで、私たち一人一人が売買春のない世界を想像することであり、「何ゆえそれは存在するのか」という問いを発することである。成人女性と少女が男性支配から解放され、私たちがみな平等な人間として生きることのできる世界においては、売買春は〔性差別という〕酸素が欠乏して死に絶えるだろう。

出典:https://www.truthdig.com/articles/the-real-face-of-prostitution/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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