【解説】以下は、ラディカル・フェミニストのプラットフォームサイト4Wに最近掲載された記事の全訳です。ウクライナの商業的代理出産企業バイオテックスコム社が、感謝祭後の大売り出し日である「ブラックフライデー」向けに、赤ちゃんのセール広告をツイッターに投稿しました。この事件を受けて、この記事は商業的代理出産(代理母)の危険性と、それ以外にもますます進行しつつある生殖医療技術の商業化に警鐘を鳴らしています。
ジュヌビエーブ・グラック
4W、2021年11月24日
ウクライナの不妊治療クリニック「バイオテックスコム:人間生殖センター(BioTexCom Center for Human Reproduction)」は、「ブラックフライデーの大売出し(Sale, Black Friday)」という、赤ちゃんに囲まれた女性が登場する広告をツイッターに投稿し、ネット市民から激しい批判を受けた。このクリニックは、「割引を受けるならお早めに。お客様へのユニークな提案。すべてのパッケージを3%オフで提供」と宣伝している。
2020年5月、ウクライナ政府が新型コロナウイルスの蔓延を防ぐために外国人旅行者に対して国境を閉鎖した後、100人以上の赤ちゃんがこの会社に取り残されたことで、キエフにあるこの代理出産クリニックの写真が世界中で話題になった。
女性が他人のために出産することで報酬を得る商業的代理出産は、世界でもわずかな国でしか合法化されておらず、そのほとんどが旧ソヴィエト連邦の国々で行なわれている。ベラルーシ、グルジア、カザフスタン、ロシア、ウクライナに加え、アメリカのいくつかの州でも行なわれている。キエフ在住で生殖分野を専門とする弁護士のセルギー・アントーノフ氏によると、ウクライナの商業的代理出産は規制されておらず、業界の3分の2は違法に運営されているという。
ウクライナは「生殖ツーリズム」(代理出産契約のために海外に行くこと)にとって圧倒的に人気のある国であり、赤ちゃん購入者たちの国際市場を魅了している。同社では、英語、中国語、フランス語、ドイツ語、ヘブライ語、イタリア語、韓国語、ルーマニア語などの言語で顧客サービスを提供している。
ウクライナのこの収益性の高い代理出産産業は、小さな村に住む貧しい女性をターゲットにしている。バイオテックスコム社のオーナーであるアルベルト・トチロフスキー氏は、同社のウェブサイトで公開された2019年11月のインタビューの中で、商業的代理出産は「夫のいない小さな村の女性たち」にとって「高収入の仕事」であると述べている。
※
また、バイオテックスコム社は、未検証で大きな議論を呼んでいる遺伝子工学の方法を商業化している、世界でも数少ない不妊治療クリニックの1つだ。同社はこれを「ミトコンドリア・ドネーション」として売り出している。卵子のミトコンドリアDNAに干渉して、胚に2人の女性と1人の男性の遺伝物質を持たせるというもので、「3人の親」を持つ赤ちゃんが生まれると宣伝されている。
ミトコンドリアの置換は生殖細胞に変化をもたらすが、その変化は子供が女の子である場合にのみ将来の世代に受け継がれる。これが意味するのは、人間が女性の遺伝子を改変するということだ。『カンバセーション』紙に掲載された2016年の記事によると、米国科学アカデミーは、ミトコンドリア編集の使用を男性の胚に限定し、変化が継承されないようにするよう助言している。これまでのところ、この提案は政策立案者によって無視されている。
また、このクリニックでは、購入者が赤ちゃんの性別を選ぶことができる性別選択のオプションも提供している。胚の性別選択を実現した技術は、農業界にとって有益であるとして擁護され、すでに乳業や卵業で雌の家畜を選択するために応用されている。専門家の間では、精子を選別する性別選択法によって、女の子の誕生が少なくなるのではないかという懸念が出されている。この技術は、Y精子に比べて遺伝物質(DNA)を2.8%多く持つX精子の速度を意図的に遅くして、男性コードの精子がよりスムーズに通過できるようにするものだ。
オランダ・マーストリヒト大学の生命倫理学者ワイボ・ドンドールプ氏は、「すでに性別比が偏っている国では、より簡単で安価なアクセス可能な技術があれば、それが利用されることは明らかだ」と警告している。2020年、国連の報告書では、2013年から2017年の間に、インドでは毎年46万人の女児が出生時に「行方不明」になっていることが取り上げられた。これは1日当たり平均1260人もの女児が「行方不明」になっている計算だ。
昨年、ウクライナ大統領府「子どもの権利委員会」のミコラ・クレバ氏は、「ウクライナでそのような『サービス』を受けるための商業化や許可を得ることは、ウクライナの子どもを無秩序に海外に売り渡すことを助長する」と主張し、代理出産の禁止を勧告した。
「母親から遠く離れた場所で子供が生まれることは不自然だ。このようにして、ウクライナは単に赤ちゃんの国際的なオンラインストアになっている。そして、ウクライナがこのようにして『供給』している子どもたちの実数をわれわれは知らないのだ」と付け加えた。
生殖補助医療(ART)や不妊治療クリニックの成功は、畜産業界で行なわれていた動物実験や、体外受精(IVF)の発明者であるロバート・G・エドワーズに負うところが大きい。エドワーズは、不妊症の女性を助けたいという動機を主張していたが、彼のキャリアの大半は英国の優生学協会のメンバーであり、同協会の評議員も務めていた。
生殖補助医療業界に関わったことのある女性たちからは、その過程で使用される強力な薬剤が、生殖器系のさまざまな癌を引き起こす可能性があるというエピソード的証拠があるが、この分野の研究は非常に不足しており、総じて政府はクリニックに対して長期的な追跡調査を行なうように要求していない。
2013年に銀行ローンの返済に追われて代理出産を行なったウクライナ人女性、テチアナ・シュルジンスカさんは、他の女性たちに警告しようとしている。シュルジンスカさんは、出産後わずか数ヶ月で子宮頸がんに罹患した。2020年、彼女は『ガーディアン』紙に「契約では赤ちゃんだけが守られ、私たちのことは気にしてくれない」と語っている。
さらに、凍結胚移植を伴う生殖補助医療で妊娠した100万人以上の子どもたちの健康記録を分析したオランダの研究者は、小児がんになる確率が2倍以上高いことを明らかにした。また、ケンブリッジ大学の研究では、代理出産で生まれた子どもは、うつ病になりやすいこともわかっている。
出典:https://4w.pub/ukrainian-surrogacy-black-friday/
【関連記事】(商業的代理母)
- ウクライナの代理母制度の禁止を求める国際署名、200団体の署名を添えて提出(2020年6月3日)
- ウクライナにおける商業的代理母制度の禁止を訴える国際署名にご協力を!(2020年5月28日)
- ニューヨーク州、コロナ危機のどさくさに商業的代理母制度の合法化案を可決(2020年4月4日)
「ジュヌビエーブ・グラック「ウクライナの代理出産クリニックがブラックフライデーに向けて赤ちゃんの広告を掲載」」に2件のコメントがあります