買春者、ピンプ、ペドファイルを擁護する国際法律家委員会(ICJ)の報告書

【解説】以下の論考は、私たちがいつもお世話になっている Nordic Model Now! に掲載された論考で、国際法律家委員会(ICJ)が今年の3月8日に出した報告書を批判したものです。ICJは、1952年に設立され、世界各国の裁判官・法学者・弁護士によって構成される国際団体で、国連経済社会理事会・ユネスコ・欧州評議会・アフリカ連合の諮問機関の資格を有する老舗人権団体です。アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチ、世界保健機構、国連合同エイズ計画(UNAIDS)などの国際人権団体や国連機関はすっかりセックスワーク論に染まってしまい、売買春の完全非犯罪化を主張していますが、これらの組織と密接な関係のある国際法律家協会(ICJ)も同じ立場をとっています。

 1世紀以上にわたって、3月8日は女性の人権向上のための国際運動の日として祝われてきた。それゆえ、60人の「高名な法学者」で構成される国際NGO、国際法律家委員会(ICJ)がこの日を選んで、買春者やピンプを含む売買春システム全体の非犯罪化を主張する新しい報告書を発表したのは、実に奇妙だ。まるで売買春が家父長制的な女性抑圧の根幹をなしていないかのようではないか。

 この報告書は、『セックス、生殖、ドラッグ使用、HIV、ホームレス、貧困に関連する諸行為を禁止する刑法に対する人権アプローチを求める3月8日原則』と題され、拷問、虐待、ジェンダーに基づく暴力からの自由に対する女性の人権を認めると主張し、植民地主義、人種差別、性差別、階級差別、その他もろもろの権力の力学に根差した差別的慣行が今なお続いていることを嘆いている。しかし、売買春制度がまさにそのような差別的慣行であることについてはいっさい認めようとしない。

 同報告書の趣旨は、セックス、生殖、薬物使用、HIV、ホームレス、貧困に関連するあらゆる種類の行為に対して、刑法が用いられるべきでないというものである。たしかに、その多くに関しては理にかなった提言だ。たとえば、同性愛、ホームレス、貧困、中絶を犯罪化すべきではない。しかし、同報告書は、「特定の種類のポルノ」、「非搾取的な代理出産」、そしておそらく未成年者のセックスを含む、多くのものを非犯罪化することを推奨している。まるでポルノが、女性の性的貶めや、権力や支配のエロティック化にもとづいていないかのように。まるで「非搾取的」な代理出産がありうるかのように。まるで、女性が子どもの性的虐待を取り締まる法律のために何十年も闘ってこなかったかのように。そして、売買春の非犯罪化もその提言の中に含まれている。

「原則17 セックスワーク」

 売買春に関する項目は、原則17にある。

「同意のある成人間の性的サービスを金銭、物品または役務と交換すること、並びに同意のある成人間の性的サービスを金銭、物品または役務と交換することを目的とする他者との交渉、依頼の広告、または他者との施設の共有を、公共の場であるか私的な場であるかを問わず、強制、力の行使、職権乱用または詐欺がなければ犯罪とすることができない。

 刑法は、直接的または間接的に、金銭的または物質的な利益を受け取るために、公正な条件の下で、強要、力の行使、職権乱用または詐欺がないかぎり、金銭、物品またはサービスを対価とする同意ある成人間の性的サービスの交換を目的とする施設を促進、管理、組織化、他者との交渉、広告、情報の提供、場所の提供ないし賃貸する第三者の行為を規制してはならない。」

 第1パラグラフは、売買春は等しい立場にある2人の個人が自由に同意するビジネス上の取り決めであるという考えが前提となっている。売買春のジェンダー化された性質(買春者のほとんどが男性であり、被買春者の大多数が女性であること)については、まったく認識されていない。また、売買春の中の女性と少女の物質的現実を反映したものでもない。貧困、代替手段の欠如、ホームレス、困窮、人種差別、新植民地主義、児童虐待、極度に性化された文化はすべて、少女と女性を売春に駆り立て、そこに閉じ込める要因であり、多くは「ボーイフレンド」、パートナー、家族、組織的犯罪集団によって巧みに誘い込まれ、あるいはあからさまに強要される。

 かの「高名な法学者」たちは、「同意」という概念がこの現実において妥当であるとすることの意味をまともに考えたのだろうか。この点については、また後ほど触れたい。

 私たちは、セックスを売ることを犯罪とするのは妥当でないことに同意する。しかし、買春者には実際に選択肢があり、彼らの払うお金こそが、女性の売春に寄生している「ボーイフレンド」、パートナー、家族、組織的犯罪集団を駆り立てているのである。では、なぜ「高名な法学者」たちは、買春やピンプを非犯罪化しようとするのだろうか。おそらく彼ら自身が熱心な買春者であるのでないかぎり、理解不能だろう。

 人身売買業者に関する国際人権条約であるパレルモ議定書には、「人身取引の原因となる、あらゆる形態の人、特に女性と子どもの搾取を助長する需要を抑制する」ための措置を講じる義務が国家に課せられているのであり、これにも直接反している。

 では、第2パラグラフを考えてみよう。ここで彼らが求めているのは、「ボーイフレンド」、パートナー、家族、組織犯罪集団など、(主に)女性や少女の売春を搾取し利得する者と、それを促進し可能にする広告サイト、売春店、クラブなどを運営する者の非犯罪化である。つまり、何らかの強制、力の行使、詐欺が関係しているのでないかぎりは、これらをすべて非犯罪すべきだということである。しかし、強要、力の行使、詐欺は、通常、傍目にはわからないし、証明するのは常に困難である。つまり、非犯罪化の下では、多かれ少なかれ、すべてのピンプが非犯罪化されるということであり、ニュージーランドとドイツの両国で実践されていることで証明されている。

 報告書は、国際的な人権基準に基づいていると主張している。しかし、ピンプを非犯罪化することは、国際人権条約の中核の1つとして認識されている「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(CEDAW)」の第6条に直接反する。第6条は売買春を扱っており、以下の通りだ。

「締約国は,あらゆる形態の女子の売買及び女子の売春からの搾取を禁止するためのすべての適当な措置(立法を含む)をとる」

 つまり、国家は刑事罰の行使を含め、ピンプ行為〔売春からの搾取〕を禁止する義務を負っている。この「高名な法学者」たちは、この条項に言及していないので、これを原則17とどう整合させるかは不明である。

 また、「高名な法学者」たちが、売買春が驚くほどの大量の暴力を伴い、しばしば国際人権条約の中核である国連拷問禁止条約で定義されている拷問や残虐な扱いの定義に合致することを示す研究結果やサバイバーの証言について検討したエビデンスもない。

なぜこのようなことが起こったのか?

 なぜ「高名な法学者」たちが、自分たちが守ると主張する重要な国際人権法を踏みにじろうとするのか、問われなければならない。彼らは皆、自分たちの特権に目がくらんだのだろうか? 周辺化された女性や子どもの人権は重要ではないのだろうか?

 ICJのウェブサイトによると、60人の委員会には男性と女性の両方が含まれているが、現在は男性が大半を占めている。お金を払ってセックスをすることは、一般的な男性の行動だ。だから、男性委員の少なくとも何人かは、自分自身が買春者である、あるいは買春したことがあるということは、統計的に避けられない。もちろん、このことは、彼らにとって、性産業の非犯罪化を主張し、それが女性や子どもに与える被害のエビデンスを無視する動機づけとなるであろう。

 そして悲しいことに、多くの女性、特に権力のある地位についた女性たちは、集団としての女性や少女よりも、周囲の男性や、自分が成功するために懸命に奉仕してきた男性支配のシステムに忠誠を誓っている。

 ここでも他の力が働いている。性産業のロビイストたちは、ICJの報告書の作成に関わった多くの国連機関――国連合同エイズ計画(UNAIDS)を含む――を取り込んでいる。2012年、国連合同エイズ計画は世界保健機関(WHO)と共に、性産業の完全非犯罪化に関する勧告を策定した。この勧告は、不十分なモデル研究、誤った仮定、そして、当時メキシコのピンプであり、その後性的人身売買で15年の懲役刑を受けたアレハンドラ・ギルの指導下にあったセックスワーク・プロジェクト・グローバル・ネットワーク(NSWP)からの助言に基づいていた。UNエイズはそれ以来、性産業の完全な非犯罪化を求めてロビー活動を続けている。

政策の乗っ取り

 セックスワーク・プロジェクト・グローバル・ネットワーク(NSWP)が、ICJの報告書への支持を真っ先に表明した組織の一つであるのは驚くべきことではない。同ネットワークは「グローバルなセックスワーカーの声を支持し、女性、男性、トランスジェンダーのセックスワーカーの権利を擁護する地域ネットワークをつなぐ」ことを活動目的としていると主張しているが、実際には、性産業の完全非犯罪化(decrim)を強く働きかけ、3つのコアバリューに従わない個人や組織を排除する党派的な組織である。

1、セックスワークをワークとして受け入れる。

2、セックスワーク(セックスワーカー、クライアント、第三者*、家族、パートナー、友人を含む)に対するあらゆる形態の犯罪化およびその他の法的抑圧に反対すること。

3、セックスワーカーの自己組織化と自己決定を支援する。

*「第三者」とは、経営者、売春店の店員、受付係、メイド、運転手、家主、セックスワーカーに部屋を貸すホテル、その他セックスワークを促進するとみなされるすべての人物を含む。

 ほとんどの被買春女性は、性を売る行為が非犯罪化されることを望んでいるが、ピンプも非犯罪化されることを望んでいる人は、はるかに少ない。しかし、非犯罪化のロビイストたちは、通常、完全な犯罪化か完全な非犯罪化かの二者択一で議論を展開する。多くの女性は、自分が犯罪者になるのは嫌だと思っているので、非犯罪化が唯一の選択肢だと感じている。非犯罪化推進ロビイストたちは、第三の選択肢である北欧モデル(性を売ることを非犯罪化するが、買うことやピンプ行為は犯罪化する)があることを説明せず、言及したとしても、「女性の安全が損なわれる」などという卑劣で事実と異なる主張を繰り返す傾向がある。

 ビル&メリンダ・ゲイツ財団、フォード財団、ママキャッシュ、オープン・ソサエティ財団、国連人口基金など、大規模な国際的資金提供機関のほとんどは、セックス産業ロビーのプロパガンダに取り込まれ、この分野でNSWPの立場を支持しない活動団体に資金提供することは、ほとんどない。つまり、非犯罪化に反対する周辺化された女性や少女と活動する団体は、通常、資金を得るのが難しいということだ。その結果、これらの団体はわずかな資金で運営され、ウェブサイトを作るためのリソースもない場合さえある。そのため、資金力のある非犯罪化推進団体とは異なり、国際社会から実質的に見えない存在となってしまっている。

 研究資金も同様に非犯罪化推進派に偏っている。完全な非犯罪化を推進する新しい研究なるものが頻繁に発表されている。その多くは、研究の質や信頼性に疑問符がつくものである。例えば、『ジャーナル・オブ・ロー・アンド・エコノミクス(Journal of Law and Economics)』は最近、売買春の自由化・禁止とレイプの発生率との間に因果関係があることを発見したと主張する研究を発表した。私たちは、この研究に重大な欠陥があることを明らかにしたが、それにもかかわらず、この「研究」は非犯罪化を求める声が広まるきっかけとなった。

 これらのことは、非犯罪化に対するコンセンサスがあるように見えさせているが、実際にはそれは真実からほど遠い。しかし、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、その影響力を行使して状況をさらに悪化させようとしている。例えば、2026年までの5年間の戦略では、世界の90%の国民で非犯罪化を採用することを重要な目標の1つにしている。これは、「サービスへのアクセスを拒否または制限する懲罰的な法的・政策的環境」を減らすという呼びかけの下に提示されているが、例によって例のごとく、「犯罪化」vs「非犯罪化」という混乱と誤解を招くような枠組みを利用している。これは不誠実だ。というのも、UNAIDSは「北欧モデル」を、サービスへのアクセスを拒否したり制限したりしないにもかかわらず、犯罪化の一形態であるとみなしているからだ。実際、その逆で、売買春に関わる人々に対する質の高いサービスは、北欧モデルの重要な柱となっている。これとは対照的に、売買春が非犯罪化されると、当事者女性のための専門的なサービスが消えてしまうことが経験上わかっている。

 「高名な法学者」たちが、性産業ロビーのプロパガンダに引っかかるほどナイーブであることを証明したのは残念なことである。また、彼らの勧告は、最も不利で周辺化されたコミュニティに悪影響を与えないようにする義務を放棄するものだ。もし彼らの「原則」が採用され、より多くの国が性産業を新自由主義市場の猛威に開放するならば、数え切れないほどの数の少女と若い女性がこの産業に引きずり込まれ、その人生を破壊され、あらゆる場所で女性と少女に対する男性の暴力が急増することが予想される。

「原則16 同意にもとづくセックス」

 「高名な法学者」たちが売買春の当事者間の物質的不平等と、それが同意の概念に与える影響を考慮しない以上、「同意に基づくセックス(consensual sex)」を扱う「原則16」が以下の記述で始まることに驚く必要はないだろう。

「性的行為の種類、当事者の性別/ジェンダー、性的指向、ジェンダー・アイデンティティ、ジェンダー表現、婚姻関係にかかわらず、同意に基づく性的行為は、いかなる状況においても犯罪化されてはならない。」

 表面的には合理的に聞こえるかもしれないが、よく見れば見るほど不安になる。誰が「同意に基づく」を定義するのかについては言及されていない。そして、同意を与える当事者の中には子どもや障害者も含まれているようだ。現代世界に存在する巨大な権力格差と、その格差が個人の権力と自由に及ぼす影響――年齢、能力、障害、富と権力、人種、階級、性別/ジェンダーによる格差――を認識せず、それを考慮しないまま、大げさに声明を出していることが不安にさせるのだ。

 たとえば、非犯罪化を推奨する際、「高名な法学者」たちは、飢えたホームレスの女性がお金を払って性行為をするために男性に自分を差し出すことで、行きずりの男性とのセックスに「同意」していると考えているようだ。まるで、自分自身とお腹を空かせた子供たちを養うために必要なことは何でもするという彼女の衝動が、文句の言えない相手にお金を払っていやいやながらのセックスをさせて自己の性的欲求不満を解消しようとする男性サラリーマンの決断と同等であるかのようだ。このことを受け入れることができるのであれば、年上の男性との性行為を承諾しているように見える未成年の少女がそれに「同意している」と考えるのは、ほんの小さな一歩にすぎない。しかし、実際には、権力の力学によって、彼女の「同意」は、恐怖で身動きがとれないというだけでなく、選択肢がないことや、彼女を守ったり男性の性犯罪者で溢れる世界に対する準備をさせてくれる大人がいないことの表れである可能性が高いのだ。

 とくに憂慮すべきなのは、原則16には次のように記されていることだ。「国内で定められた性行為同意年齢未満の者を含む性行為は、法律上はともかく、事実上は同意が得られる可能性がある」。

 「著名な法学者」たちは、未成年との性行為は許されると言っているのだろうか。最低同意年齢の設定は「自由」に対する不必要な制限であると暗に言っているのだろうか。もしそうなら、彼らは誰の自由と福祉に関心があるというのか。未成年の少女が性的虐待を受けずに成長する自由や、それが少女に与える不釣り合いに大きなリスクを考慮しているようには、とうてい見えない。

 要するに、ICJの報告書は、人権論というよりも、男性の権利活動家の綱領のように読めるのである。私たちは「高名な法学者」たちに、この報告書を撤回して、それを起草委員会に差し戻すこと、次に報告書を起草するときは、地上で最も周辺化された女性と子どもたちの福祉と人権を中心に置くこと、その際、性的搾取産業複合体の拡大を求める金持ちロビー団体の支援を受けないようにすることを要求する。そして今度は、買春歴のあるメンバーを排除することだ。

出典:https://nordicmodelnow.org/2023/04/19/who-benefits-when-the-international-commission-of-jurists-icj-sides-with-sex-buyers-pimps-and-paedophiles/

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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