コロナ危機下における性売買をテーマにオンライン国際シンポジウムが開催される

 2020年4月30日に、コロナ危機下における性売買をテーマにしたオンライン国際シンポ(At the Edge of the Margins: COVID-19’s impact on women in the sex trade)がCATWインターナショナル(反人身売買女性連合)の主催で開催されました。ズームを使った登録型のオンライン・シンポで、700名以上が同時視聴したとのことです。

 司会はCATWの事務局長であるテイナ・ビエン・アイメさんで、スピーカーは以下の4人のサバイバー&活動家です。

・アリカ・キナン(アルゼンチン)……サンマルティン大学の「人身取引と搾取の研究・調査・訓練プログラム」の責任者。性的人身取引のサバイバーでアボリショニスト。

・レーラ・リーフェルト(オランダ)……Share Network の創設者で、11年間にわたって性的虐待と人身取引の被害者を支援。

・ミッキー・メジ(南アフリカ)……売買春のサバイバーで、南アフリカのフェミニスト人権団体 Embrace Dignity のアドボカシー・マネージャー。

・メラニー・トンプソン(アメリカ)……12歳からニューヨークで性的人身売買の被害者として搾取され、15歳で反人身売買の活動家に。現在、ニューヨーク市立大学の学生。

 シンポで議論の中心となったのは、コロナ危機とそれに伴うロックダウン(都市封鎖)のもとで、性売買のもとにある女性たちがどういう状況にあるのか、コロナ危機の後にどのような政策を取るべきなのかです。

 売買春が禁止されている南アフリカの活動家ミッキー・メジさんは、南アフリカではすでにロックダウンが4週目に入っているが、売買春の中の女性たちには何の支援もなされておらず、そのため、彼女らの一部は非合法に売春を続けざるをえず、買春客の暴力によりさらされやすくなっていると報告しています。

 同じく売買春が禁止されているアメリカの活動家メラニー・トンプソンさんは、コロナ危機まで、主流メディアや政治家たちは売買春の完全非犯罪化を強力にプッシュしていたが、コロナ危機によって完全非犯罪化の圧力は少し弱まってきていると指摘しています。しかし、メディアは、コロナ危機で収入を失った被買春女性の苦境を理由に、売買春の完全非犯罪化を改めて推進しているとのことです。メディアは「セックスワーカーは貧しい人々だ、だから売買春を非犯罪化してあげないといけない」と言っています。ところが実際には、アメリカでは多くの性産業は通常通りの営業を行なっており、買春客も、被買春女性に「君たちはお金に困っているだろ。僕が助けてあげるよ」と言って、買春行為を正当化するとともに、それをより有利なものにしようとしているとのことです。

 アルゼンチンの活動家アリカ・キナンさんによると、アルゼンチンではピンプ行為は禁止されているが、買春は処罰されておらず、彼女たちは買春の犯罪化をめざして運動をしているとのことです。現在のコロナ危機のもとで、性産業の女性たちはやはりほとんど支援も受けていないとアリカさんは報告しています。そうした中で、「アマール」のような女性団体は、セックスワーク論にもとづいて、売買春を一つの仕事とみなすようキャンペーンを展開しているとのことです。アルゼンチンでは実際には被買春女性は処罰の対象ではないのに(日本の売春防止法と似た法体系のようです)、セックスワーク派のロビー団体は、あたかも被買春女性が処罰されているかのようなキャンペーンを展開して、性産業の全面的非犯罪化をめざしているとのことです。

 売買春が全面的に合法化されているオランダの活動家レーラ・リーフェルトさんは、オランダ政府は休職を余儀なくされた国民に支援金を提供しているが、それを受給するためには、納税者として登録されていることと、オランダの合法的な住民登録証が必要だが、性産業の中にいる女性たちの大部分はそのどちらも欠いているために、給付を受けられていないと報告しています。また、明確なデータははないとはいえ、コロナ危機以降、性産業の中の女性たちに対する暴力が増えているとのことです。しかし、コロナ危機以前から、性産業の中にいる女性たちへの暴力が増加傾向にあったことを知っておく必要があるとリーフェルトさんは釘を刺しています。

 以上のような現状を踏まえて、コロナ危機の中で、あるいはコロナ危機後に、どのような政策を取るべきかについて、4人のスピーカーは次のように述べています。

 メジさんは、性産業の女性たちが、暴力の被害者としてのカテゴリーにも、また労働者としてのカテゴリーにも入っておらず、それゆえ、コロナ関連の支援のいずれも受けられないでいる現状を指摘しつつ、今こそ、被買春女性を「女性に対する暴力」の被害者であると政府が認識することによって、彼女たちに対して、そうした認識に基づく手厚い支援を提供するべきであると主張しています。

 レーラさんは、現在のコロナ危機がはっきりと示したのは、売買春の合法化されたシステムは何らその中の女性を助けるものではなく、ただ彼女らを引き続きその状況の中に閉じ込め続けるものでしかないと指摘しています。メジさんも、次のような貴重な指摘をしています。性産業の中の女性たちは、コロナ危機によるロックダウン以前からずっと、売春店の中にロックされ(閉じ込められ)てきたのであり、彼女たちは感染症に対してほぼ無防備な状況に置かれてきたのだ、と。

 メラニーさんは、メディアは現在のコロナ危機の中で、売春できないことによる収入減だけが問題であるかのように語って、売買春の包括的非犯罪化を推進しているが、メディアのこのような「語り方(ナラティブ)」を変えなければならない、売買春それ自体が女性に対する暴力の一形態であるという認識を広める必要があると指摘しています。同じような傾向は日本にも広く見られるので、この指摘は非常に重要です。

 アリカさんは、政府に対して、現在、性産業の中にいる女性たちに対する支援をするだけでなく(もっとも、その支援もほとんどないが)、そこからの離脱に対する支援をする必要があると訴えています。

 以上、ごく簡単にですが、シンポの内容を紹介させていただきました。

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。