ジュリー・ビンデル「売買春は廃絶することができるし、廃絶されるだろう」

【解説】売買春ロビー団体の主張を批判したこの記事はやや古いものですが、売買春推進のロビー団体の主張は何十年と何ら変わらないものなので、いささかも古くなっていません。

ジュリー・ビンデル

『インディペンデント』2017年9月9日

 売買春推進派のロビー団体が宣伝している性売買に関する最も有害な神話の一つが、売買春は廃絶されえないというものである。「売買春は常に存在したし、今後もずっと存在しつづけるだろう」という言を耳にするたびに1ドルずつもらえるなら、フェミニスト団体は二度と資金不足に悩むことはないだろう。

 この悲観主義の政治学によって生み出されているのが、売買春は廃絶するのではなく〔合法化したうえで〕規制するべきだというリベラル派のコンセンサスである。このような態度はフェミニズムの正反対物である。「貧困はけっしてなくならないから、もっと多くの救貧所を作ることに精を出すべきだ、などと言う人はいません」。これは、あるサバイバー活動家が私に語った言葉だ。私がグローバル性売買に関する著作を準備するための調査をしているときのことだった。「あるいは、レイプはけっしてなくならないだろうから、被害者の手当てに焦点を絞るべきだとも言いません。なのに売買春についてはそのようなことが言われるのです」。

 売買春支持派のロビー団体の政治と信念は、私が出くわした運動の中で最も悲観主義的で運命論的なものだ。「売春は最古の職業だ」と呪文のごとく繰り返される――「売買春は常に存在してきたし、今後も存在するだろう」と。あるいは、学者のキャサリン・ハッキンが論じるところでは、男性は女性よりも多くのセックスを望むのだから、男性がセックスにお金を出すのは必然的である、と。

 一部の「セックスワーカーの権利」活動家たちは次のようにさえ主張する。男は要求に応じてすみやかにセックスを得る「必要」があり、さもなくばレイプすることを「余儀なく」されるだろう、と。ある買春者はインタビューの中で、なぜセックスを金で買うのかについてこう答えた――「買春は、満たされない性欲を満たすための最後の手段だ。レイプは〔女性にとって〕より危険だろうが、〔買春できないかぎり〕誰かを傷つけることを余儀なくされるか、それとも、欲求不満がたまっても1日中マスをかいているかだ」。これ以上に、男性とそのセクシュアリティに関して悲観主義的な見方があるだろうか?

 それに対して、アボリショニストの運動は、数ある運動の中でも最も楽観的な運動である。それはあえてユートピア主義的であろうとする。賢明なゲイリー・ヤングが論じるように、理想主義は世界をより良いものに変えようとする人々にとって決定的なものである。理想主義とユートピア的ビジョンがなければ、未来において自分が生きたいような世界を構想することなどできないとヤングは言う。私も同意見だ。売買春のない世界は可能であるだけではない。それは不可避である。フェミニズムが勝利し、家父長制が打倒されて真に平等な社会に取って代わられるなら、男性による女性と少女に対する抑圧と虐待にもとづいたシステムである売買春は存在しえないだろう。

 性売買を合法化した国の諸政府は、いかなる批判的な見解も長らく抑圧してきたが、アボリショニストの運動はそうした国々でも影響力を持ち始めている。オランダ在住のジャーナリスト、レナタ・ファン・デルジーは、同国で蔓延している商業的レイプのシステムを拒否するアボリショニストのニューウェーブを支える1人だ。ヴァンダジーはかつては、合法化がセックス市場をコントロールする唯一の手段であると信じていたが、性産業を調査することで考えを変えた。

 2013年、ファン・デルジーの著作『赤線地区の裏に隠された真実(De Waarheid Achter de Wallen)』が出版され、彼女は今では、小さいがますます成長しつつあるオランダのアボリショニスト運動に参加している。「5年前なら、この国でアボリショニストの運動が起こるなんて考えられませんでした。しかし、今日、それは成長しつつあり、発展途上にあります」とデルジーは私に語った。

 同じく性売買が合法化されているドイツは最近、「虐待の汚水場」であることが暴露された。国家によって承認されたピンプ行為を公然と批判するフェミニストたちによる調査のおかげだ。

 昨年私は、オーストラリアのメルボルンで開催された最初のアボリショニスト国際会議に出席した。タイトルは「世界最古の抑圧」だ。メルボルンでは、多くのレストランで、食の安全を理由に「お持ち帰り袋」が禁止されている。だが、州政府は合法売春店を擁護しているのだ。私は、この法の撤廃をめざすキャンペーンを展開しているサバイバーのグループにインタビューし、また、女性と少女の法的に承認された販売に反対するキャンペーンを展開しているアボリショニストたちと時間を過ごした。

 「セックスワーカーの権利」活動家たちはピンプをビジネスマンと言い換えたがっているが、アボリショニストはピンプを歴史のゴミ箱に投げ入れたいと思っている。

 世界中で多くの国々がますますもって、アボリショニスト・モデル(かつては北欧モデルと言われたが、今ではフランスやアイルランドを含む北欧以外の国々でも採用されている)を、性売買に対処する方法として、合法化モデルよりも有望なものとみなすようになってきている。合法化モデルはすっかり信頼を落としている。「売買春の非犯罪化」というニュージーランド・モデルは、実際にはそれがピンプと買春客にのみ利益を与えるものであることが、アボリショニストたちによって暴露されているスペース・インターナショナルのような、性売買サバイバーに率いられたフェミニスト団体のおかげで、搾取者やプロパガンディストではなく、売買春の真実を語る者たち〔サバイバー〕こそが、売買春の本性が人権侵害に他ならないことを暴露することができるようになった。

 偉大なフェミニスト作家であるアンドレア・ドウォーキンはかつてこう問うた。「女性の自由は、ピンプの自由よりも私たちにとって意味あるものでなければならない」と。アボリショニストの運動が発展するならば、性売買の真実について語る者たちの声に耳が傾けられ信じられるようになるだろう。ドメスティック・バイオレンス、レイプ、子どもの性的虐待について沈黙することを拒否した女性たちのあの誇るべき伝統にのっとって、性売買のサバイバーたちもついにこの問題の専門家として認識されるようになるだろう。女性の生身の身体を売ることでお金やその他の利益を得ている連中〔ピンプや性産業や買春客〕ではなくて、だ。

出典:https://www.independent.co.uk/voices/prostitution-abolition-nordic-model-pimps-punters-sex-trade-survivors-a7937786.html

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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