アナ・フィッシャー「女性は人間なのか、それとも利潤の源泉なのか?――公開書簡批判」

【解説】売買春の完全非犯罪化を求めるイギリスの団体 DecrimNow は4月11日に、売買春に関する北欧モデルに反対する公開書簡を発表し、その署名欄にはセックスワーク派のロビー団体やLGBT団体だけでなく、ロクサーヌ・ゲイのような著名フェミニストや、イギリスの労働組合や労働党系の諸団体も含まれていました。その一つが、コービンの支持基盤でもある「モメンタム」という労働党左派の団体です。この事実は、イギリスの主流左翼の徹底した腐敗と堕落を示すものですが、以下に紹介する論考は、Nordic Model Now! の代表を務めるアナ・フィッシャーがイギリス共産党(イギリスで売買春の廃絶というマルクス主義の伝統的立場を堅持している唯一の左翼組織)の機関紙『モーニング・スター』に掲載した批判文です。筆者の許可を得て、ここに掲載します。

アナ・フィッシャー

『モーニング・スター』2021年4月14日

 本紙読者のほとんどは、「モメンタム」〔2017年に結成された労働党の最左派グループ〕を知っている。おそらく多くの人がそのメンバーであり、そうでない人も、公共サービスやインフラに適切な資金を供給するために富を再分配し、少数者ではなく多数者のために平等とエンパワーメントを追求するという同グループの目的を共有していることだろう。

 もしそうなら、月曜日に「モメンタム」が発信した、労働党のある女性議員〔ダイアナ・ジョンソン〕がイギリスの売買春に「北欧モデル」アプローチを導入しようとしていることに対抗するための「DecrimNow」キャンペーンへの署名を誇示するツイートと、いったいこれらの目的がどのように整合するのか気になることだろう。

 北欧モデル・アプローチは、買春されている人々を非犯罪化し、彼女たちにサポートや真の代替手段、離脱の道を提供するものだ。また、ピンプ〔女性に売春をさせてその売り上げをせしめるヒモのこと〕や人身売買業者を取り締まり、性を買うことを犯罪とすることで、男性の意識と態度を変えることをその主たる目的としている。

 このアプローチは、売買春を、何世紀にもわたって資本主義システムが男性を取り込み、女性の従属と労働者階級の分裂を確実にするために利用してきた抑圧の制度であるとする、社会主義フェミニズムの観点に基づいている。

 最近では、グローバル資本が、売買春、ポルノ、採卵、代理出産の産業化を通じて、資本の原始蓄積のために女性や少女の身体を採掘することを目指しており、女性は富の抽出源となっている。グローバル資本は、女性や少女の性的利用や虐待をエンターテイメントとして一般男性に売り込むことに成功し、世界の性産業は、Amazon の儲けが少額にしか見えないほど莫大な利益を上げている。

 しかし、「北欧モデル」は単に理論的に開発されたものではない。それは、実践的な調査研究から生まれたものだ。スウェーデンのフェミニストたちは、売買春に関する大規模な調査を実施し、性を売る人と買う人の両方から広く話を聞いた。性を売っている女性たちは、売春に至るまでの道のりについて語り、自分を買った男たち、ピンプやドラッグとの関係、売買春が自分に与えた影響、経験した暴力や恥辱、そして自分たちの生存戦略について語った。

 調査にあたった人々が発見したのは、売買春は一般的な男女関係の極端な濃縮バージョンであるということだった。したがって、女性を罰することには意味がない。なぜなら、女性の選択肢は限られており、いったん売買春に組み込まれてしまうと、そこから抜け出すことは難しく、時には不可能だからだ。

 調査にあたった人々にとって明らかになったのは、売春が存在するのは男性が性を買うからだという単純な事実だ。売買春(とそれに関連する人身売買や悲惨さ)を減らすためには、男性が他者から性を買う権利があるという考えを改めさせる必要があると気づいたのだ。それがこの法律の目的だ。パブでの喫煙を禁止する法律が、喫煙者を悪者にしたり犯罪者にしたりするためのものではないのと同じように、北欧モデルが主に人々の考え方や態度、行動を変えるためのものなのである。

 この法律は1999年にスウェーデンで導入されて以来、多くの国で導入されている。それぞれの国では、法律の枠組みが少しずつ異なっており、取り組みや成功の度合いも異なっている。この法律を妨害しようとする試みは後を絶たない。その理由のほとんどは、いわゆる「社会主義者」を含む男たちが、資本主義エリートから与えられた、より不幸な姉妹に対する性的アクセスの権利を手放したくないからであり、また、多くの女性たちも、自分たちを人間ではなく男性に利用され虐待されるための商品であると定義しているシステムの過酷な現実を直視することに抵抗を感じているからでもある。

 「モメンタム」のツイートには、「証拠が示すように、セックスにお金を払う人を犯罪者にすることは、セックスワーカーをより危険にさらすだけだ。この重要なキャンペーンに名前を連ねられたことを誇りに思う」とある。

 どうして彼らはこんなにも無邪気なのだろうか? だったら英国保守党も、国民医療サービス(NHS)を民営化したほうがみんなのためになり、社会主義モデルでは人々が「危険」にさらされることを示す「証拠」を簡単に提示することができることだろう。

 学者やNGOが買収されてきた長く恥ずかしい歴史がある。怪しげな「証拠」に頼るのではなく、真のオルタナティブが何であるかを考える必要がある。売買春を非犯罪化すれば、ピンプや人身売買業者が大手を振って活動するようになり、普通の人々がますます残虐になり、ネオリベ・エリートが女性や子どもの苦しみからこれまで以上に富を吸い取っていくようになるだろう。これこそが私たちの目の前にある選択肢だ。

 DecrimNow の公開書簡には、「人身売買は、セックスへの需要が原因なのではなく、人々の貧困や選択肢のなさが原因である」とある。だが、性的人身売買は、他の形態の人身売買に比べてはるかに儲かる産業であり、最近の調査では他の人身売買に比べて10倍近い儲けとなっている。これはまさに、多くの男性が弱い立場の女性や少女との性的アクセスに喜んでお金を払おうとするからだ。この「豊かな鉱脈」〔買春者の払う金〕につけこんで金儲けしようとする欲望が性的人身売買の原因ではないと言うのは、まったくもって軽率であり、狂気の沙汰だ。

 たしかに、貧困と残酷な移民法のせいで、多くの人々、とくに女性や子どもたちは、彼女らを収入源として利用しようとする人身売買業者に狙われやすい脆弱な状況に置かれている。しかし、これほど多くの男たちが熱心に売春を利用しなかったなら、彼女たちはこれほど素晴らしい収入源にはならなかったろう。貧困と残忍な移民法に対する解決策は、売買春を自由化することではなく、これらの不公平さに正面から取り組むことだ。

 「セックスワーカー」を安全にしたいと公開書簡は言うが、それは矛盾語法である。あらゆる形態の売買春は本質的に危険であり、最も基本的な「健康と安全のガイドライン」に沿ったものにすることさえできない。必要なのは、売買春システムの規模を縮小すると同時に、売買春に巻き込まれた人たちに現実的な離脱手段を提供することだ。これこそが、北欧モデルの目指していることであり、労働者階級からの確固たる支持を得て適切に実施されるならば、それは可能になる。

 男性左翼のみなさん、あなた方は、資本主義システムが女性や子どもに対する権力(彼女たちに対する性的アクセスを買う権力を含め)を使ってあなた方を買収しようとしているという不愉快な事実を直視しなければならない。これに屈することは、社会主義者としての闘争を放棄することを意味する。肝に銘じてほしい、女性も人間なのだ。

出典:https://www.morningstaronline.co.uk/article/f/woman-human-being-or-profit-centre

投稿者: appjp

ポルノ・買春問題研究会(APP研)の国際情報サイトの作成と更新を担当しています。

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